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万葉神事語辞典


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項目名 わたつみのとの
表記 海神の殿
Title
Watatsuminotono
テキスト内容 海神の住む宮殿。「わたつみ」は、「わた(海)+つ(助詞)+み(霊)」で、「やまつみ(山神)」の対をなす。記紀神話では、海幸山幸神話において、兄の釣針を無くしたホオリの命が尋ねた世界が綿津見神の宮とされる。高橋虫麻呂歌集の水江浦島子を詠む歌(9-1740)では、「海界(うなさか)」を越えて船を漕いで行った世界が、「常世」であり、そこにある宮殿が「海神の神の宮」であるとする。紀の雄略天皇22年7月条には「蓬莱山」、『釈日本紀』所引の丹後国風土記逸文には、「天の上なる仙家」「蓬山」「海中なる博大之嶋」「仙都」「神仙之堺」、歌表現に「とこよ」と表わされる。記紀神話では海神宮が、海の中にある世界か、海の彼方にある世界かは、神話の世界観の問題からみて見解が分れている。一方の常世は、海の彼方にあり、スクナビコナのいる場所であり、ミケヌノミコトが波の穂を踏んで渡っていった世界だが、少なくとも海神の宮と同一視はされていない。浦島子に纏わる歌や説話で、海神宮と常世との区別がないように見受けられるのは、神仙思想の不老不死の理想郷である蓬莱山と、常世とが同一視され、それが海の彼方の世界であるというところから、三者が共通のイメージで捉えられるようになったものと見られる。万葉集で「海神の殿」という言葉そのものが見られるのは、竹取翁の歌(16-3791)のみである。9人の乙女にからかわれた翁が、自らの輝かしい半生を歌で伝える内容の中で、多くの女性から思いを寄せられた若き日の姿を語る場面で、女性が、絹の帯を小帯みたいに韓帯に取り付けてくれて海神の宮殿の屋根を飛び翔るすがる蜂のような細い腰に付けて飾る、という部分である。なぜここで海神の宮殿という表現がなされるのかは明確ではない。9人の乙女が神仙の乙女という雰囲気を漂わせているのに併せて、翁の側にも神仙的な要素を付加する意味合いからこの語が選択された可能性も考えられる。
執筆者 谷口雅博