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万葉神事語辞典


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項目名 わすれぐさ
表記 忘れ草
Title
Wasuregusa
テキスト内容 全国各地の日当たりのよい平地や丘陵地など、やや湿気の多いところに自生するゆり科の多年草。中国のホンカンゾウの変種にあたるヤブカンゾウ、ノカンゾウなど、ワスレグサ属の花を総称していう。夏、ヤブカンゾウは八重の、ノカンゾウは一重六弁のオレンジ色の花を付ける。「忘れ草」は万葉集中に5例、いずれも故郷や恋人への思いを忘れさせる植物として登場する。5例のうち、「恋忘れ草」という表現の1例以外は、いずれも「萱草」と表記される。「萱草」が憂いを忘れさせるという俗信は、もともと中国のもので、『文選』嵆康の養生論に「合歓蠲忿、萱草忘憂、愚智所共知也」とある。それにより、日本で「萱草」を「わすれぐさ」とよんだことは、『和名抄』の「萱草 兼名苑云、萱草、一名忘憂《萱音喧、漢語抄云、和須礼久佐》」からも確かめられる。ところが、「忘れ草」のもっとも古い例は、人麻呂歌集出歌(12-2475)であり、ここでの表記は「萱草」でなく「(恋)忘草」となっている。上記の通り、残り4例はすべて「萱草」なのだが、その内訳は、大伴旅人と家持の歌が各1首、巻12の作者未詳歌が2首、というように、比較的成立が新しいものばかりである。「忘れ草」の表現は、漢籍に見える「萱草」の完全なる翻訳というのでなく、もともと日本にあった俗信と外来の知識とが融合して出来上がったものかもしれない。
執筆者 新沢典子