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万葉神事語辞典


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項目名 よばひ
表記 結婚
Title
Yobahi
テキスト内容 求婚の意。「よばひ」は、万葉集の中には3首(「さよばひ」という名詞化した語を入れると4首)、記にも1例見られる。いずれも「求婚」の意味で用いられており、用字も「結婚」と当てられる。しかし、歌語としてはあまり一般的な「求婚」の意味で使用されているわけではなく、神事的な行為として意識されていたのではないかと考えられる。記は八千矛の神が高志の沼河比売に求婚するときの歌謡であるが、万葉集の用例ではこれに発想がほぼ同じで、この八千矛の神の歌謡を下敷きにしていると考えられ、表現も良く似たものがある。記の歌謡では「高志の国に…(略)…さ婚ひに あり立たし 婚ひに あり通はせ 大刀が緒も いまだ解かずて」とあり、その後に「青山に鵼は鳴きぬ さ野つ鳥 雉子は響む」と続くが、万葉集では「泊瀬の国に さ結婚に わが来たれば…(略)…野つ鳥 雉は響む」(13-3310)とある。さらに「他国へ結婚に行きて大刀が緒もいまだ解かねば」(12-2906)ともある。また、表現は違うが、菟原処女の歌(9-1809)は、これも伝説歌である。「よばひ」は、もともと動詞「呼ばふ」が名詞化したもので、原義は「呼び続ける」の意である。この「呼ばふ」という語は、「鴨妻呼ばひ」(3-260)、「網代人舟呼ばふ声」(7-1135)に見られるが、これは声を出して呼びかける、の意の通りである。「泊瀬の国に よばひ為す わが天皇よ」(13-3312)は先の3310の反歌だが、ここでは表記は「夜這為」となっており、この後に奥に寝ている父母が起きてしまう、という状況が語られているから、「求婚」にきて「呼び続ける」というどちらの意味でもとれるであろう。こうした「呼び続ける」という行為が名詞化する中で「求婚」の意味へと限定されたというが、そこには八千矛の神の歌謡を下敷きにした妻問いもしくは神事的なイメージが伴っている。
執筆者 渡辺正人