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万葉神事語辞典


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項目名 ゆだね
表記 斎種
Title
Yudane
テキスト内容 斎み清めた稲種。豊かな稔りを祈る宗教的な意味がこめられている。万葉集中の用例は以下にあげる二つである。①「青楊(あをやぎ)の 枝伐(き)り下ろし 湯種(ゆだね)蒔(ま)き ゆゆしき君に 恋(こ)ひ渡るかも」(15-3603)。②「湯種播く あらきの小田を 求めむと 足結(あゆひ)出(い)で濡(ぬ)れぬ この川の瀬に」(7-1110)。いずれの歌においても、原文では「湯種」と表記されており、稲の発芽を促進させるために、播種の前に水や湯に浸しておいた稲種のことと解する説もある。①の例は、稲種を蒔く時に、木の枝を切って、それを苗代田の水口などに刺し、それが根付くか否かで稲の稔りを占う習俗を表していると言われる。上三句は序で、慎み深く神に豊饒を祈る気持ちから、次の「ゆゆしき」を導くと考えられているが、そうした続きからは「湯種」よりも「斎種」の意に解する方が適当であるように思われる。『止由気宮儀式帳(とゆけのみやぎしきちょう)』には「湯鍬(ゆくわ)以《弖》、耕始《弖》、湯種(ゆだね)下始」「湯鍬(ゆくわ)持《弖》東向耕佃、湯草(ゆくさ)・湯種(ゆだね)下始」と、豊受宮(とよゆけのみや)の神田における種蒔き儀礼の様子が伝えられている。ここでの「湯」はいずれも「斎」の意味であるに違いない。稲の播種に関して、播磨国風土記に「大神妹妋二柱(おほかみいもせふたはしら)、各(おのおの)競(きほ)ひて国占(し)めましし時に、妹玉津日女(いもたまつひめ)の命(みこと)、生ける鹿を捕らへせて、その腹を割(さ)きて、稲をその血に種(ま)きたまひき。すなはち、一夜(ひとよ)の間に、苗(なへ)生(お)ふ。」(讃容郡)という伝承があり、また同じく賀毛郡にも、神が宍の血で田作りをする伝承がある。これらは生血の霊力を稲種に付与するという呪術的習俗の反映であると思われ、播種における宗教的儀礼の淵源をうかがい知ることができる。
執筆者 松本直樹