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万葉神事語辞典


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項目名 むすぶ
表記 結ぶ
Title
Musubu
テキスト内容 本来別のものを一つにつなぎ、離れないようにすること。万葉集には42例を数えるが、結ばれるものは、草木、紐の類、契り、心などである。多いのは紐や帯であり、「二人で結んだ紐を一人だけで解いたりはしない」(12-2919)、「忘れないでくださいと言って結んでくれた紐」(11-2558)などと詠まれる。これは男女が別れに際し、再会までは解かないことを誓って互いの衣服の紐を結ぶ習俗によるものであり、結び目に自分の魂をこめる呪的な行為を意味した。遣新羅使人の詠む「ご無事で早く帰って来て下さいと、いとしい妻が結んでくれた紐」は旅の安全と早い帰還とを祈願するものであったが、その紐の結び目が自然に解けるのは、「家の妹」が「我を偲ふ」(20-4427)証拠であり、「私を待ちかねて嘆いている」(12-3147)からだとされた。また草や松などの植物を結ぶ例にもその呪的な要素が強く表れ、有間皇子「岩代の浜松が枝を引き結んで幸い無事でいられたら」(2-141)の例で知られるように、植物の生命力に期待し、旅の平安を祈り、命の無事であることを祈る習俗がそこに見出せる。また「二人の仲は絶やすまいと結んでいた言葉」(3-481)のように、約束し誓い合うという意味もあるが、これも言葉が互いを一つにつなぎ、離れないようにする呪的な要素と捉えられるからだろう。他に「むすぶ」は霧がかかっていること、白玉をすくい取ること、「垂水の水を『結びて』飲んだ」(7-1142)のように水を手ですくう意味にも用いられるが、平安時代以降多く詠まれるこれらの用法は万葉集には少ない。なおこの7-1142には、「命の無事を祈って」が詠み込まれており、両手の掌を堅く合わせて飲むことにやはり呪的な要素が認められるのである。 折口信夫「産霊の信仰」『全集 20』。渡瀬昌忠「妹が結びし紐吹きかへる」「旅の紐結びの呪法」『渡瀬昌忠著作集 補巻』(おうふう)。
執筆者 東城敏毅