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万葉神事語辞典


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項目名 ひもろき
表記 神籬
Title
Himoroki
テキスト内容 神まつりの際に設置される臨時の神の座、依り代のこと。常磐木と呼ばれる常緑樹(榊が多い)が用いられる。四隅に榊や竹を立ててしめ縄を周囲に巡らせ、その中に依り代としての榊を立てる形をとる。常設の社殿を建てることが一般的となる以前の、古い時代における神まつり用施設・設備の原初的姿の一つと言われる。現代でも地鎮祭の折などに臨時の神座として設置される。紀の天孫降臨条の一書第二に「天津神籬」、垂仁天皇2年条に「熊神籬」の語が見えるほか、崇神天皇6年条に、倭(やまと)の笠縫(かさぬひの)の地に磯堅城神籬(しかたきひもろき)を立てて、豊鍬入姫(とよすきいりびめ)に天照大神をまつらせた、とある。ここの「神籬」には「比莾呂岐」という音注があることから、古くは「ひもろぎ」ではなく「ひもろき」と清音で発音したことがわかる。『和名抄』、『名義抄』には「ヒボロキ」の音注が見える。万葉集には、「神南備にひもろきを立てて慎み祈るが、人の心というものはつなぎ止めるのが難しいものだ」という意の恋の歌がある。(11-2657)この歌の原文表記は「紐呂寸」で、これも「ひもろき」と読む。また、「ひもろき」が常設の神まつり設備ではなく臨時のものであることが、この歌からも理解される。さらに、紀・万葉集ともに「ひもろき」を立てる、とあることから、地面に対して垂直方向にある程度の高さを持つ設備であることもわかる。ひもろきには木が使われることから、「ひもろき」の「き」は「木」、あるいは周囲に巡らした柵の意の「城」であるとの解説がなされることがあるが、上代特殊仮名遣いから考えるに、「岐」「寸」は甲類であるのに対し、「木」「城」は乙類で発音が異なるため別語であり、そのようには考えられないと一般にはされている。これに対して蜂矢真郷は川端善明の説を援用し、露出形母音構造において、「母音が乙類オの音」の後ろに「母音が乙類イの音」がくる例が事実としては存在せず、音節結合上あとの音が乙類イにならずに甲類イになることをふまえ、「ひもろき」の「き」も、本来は「木」を示す乙類イであったものが、すぐ上の「ろ」が乙類オであるために甲類イになっているという考え方も全く出来ないわけではない、とする。なお、「ひ」は「霊」、「もろ」は『岩波古語辞典』によれば「森・杜」の意とされている。蜂矢真郷「~キと~ギ」『万葉』150号。川端善明「名詞活用の強弱(一)」『活用の研究Ⅱ』(大修館書店)。
執筆者 原田留美