國學院大學
國學院大學デジタルミュージアム

万葉神事語辞典


はじめに    ≫凡例    ≫項目執筆者一覧    ≫収録項目一覧

詳細表示 (Complete Article)

項目名 はか
表記
Title
Haka
テキスト内容 死亡した人を正式に埋葬した場所。万葉集中、歌に用いられた「はか(墓)」の用例は、額田王の御陵退散歌の「やすみしし  我ご大君の  畏きや  御陵仕ふる  山科の  鏡の山に」と、高橋虫麻呂の菟原処女の墓を見て作る歌の「長き代に 印にせむと 遠き代に 語り継がむと 娘子墓 中に造り置き 壮士墓 このもかのもに 造り置ける」(9-1809)、「墓の上の木の枝靡けり聞きしごと茅渟壮士にし寄りにけらしも」(9-1811)の3例のみである。額田王の例は、天智天皇の崩御による大宮人たちの山科の御陵への奉仕を歌うものであり、壬申の乱の勃発により、葬送の儀礼もそこそこに御陵から退散しなければならない無念が歌われている。後2例は、現在の神戸市東灘区御影塚町にある処女塚とそれを挟むように東西にある求女塚の3基の古墳から生まれた、二人の男による妻争いの伝承を歌ったものである。人の死後は、まずモガリという儀礼が行われ、一定期間を経た後にハフリの儀礼へと移行する。万葉の時代には既に形式化されていたが、本来モガリは死者の魂を呼び戻すことを目的とする儀礼で、それが叶わぬことが確定するとハフリの儀礼へと移行した。ハフリの原義は「捨てる」ことであり、死者の魂がこの世に留まらないように、死者の世界へと送る儀礼である。墓はハフリの儀礼の場であり、死者の魂が封じ込められる場所であった。ただし、万葉歌の表現上では、先述した菟原処女の例の他、題詞に墓を見て作ったと記される歌が散見され、それらの例では、墓がいにしえの人物(女性)にまつわる伝承を思い起こさせる場所として登場している。死者の魂が封じられている場所であるがゆえに、その人物のことを後世まで語り継ぐよすがの場所となるのであろう。
執筆者 大浦誠士