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万葉神事語辞典


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項目名 ぬさ
表記
Title
Nusa
テキスト内容 神に祈る時に捧げる幣帛。木綿、麻、紙などを切ったり、たたんだりして作ったもの。日本古来の織物である倭文(しつ)を幣にしたシツヌサ(13-3286、19-4236)もある。また、袖を切って幣にした例も見られる。「逢はなくに 夕占を問ふと 幣に置くに 我が衣手は またそ継ぐべき」(11-2625)は、何度も占うために、際限なく袖が必要だと言う歌である。神に奉納する物の総称としてのみてぐら(幣帛)も、幣と同義に使用される場合がある。万葉集中の幣の例は、無事を祈るために捧げられるものが多い。それを「手に取り持ち」(13-3286など)、神に「取り向け」(1-62)、坂などに「取り置きて」(13-3237)無事を祈った。たとえば、遣唐使のように、危険な海を渡る時である。702(大宝2)年の入唐使には「ありねよし 対馬の渡り 海中に 幣取り向けて 早還り来ね」(1-62)とうたわれ、733(天平5)年の入唐使に対しても、「留まれる 吾は幣引き 斎ひつつ 君をば待たむ 早還りませ」(8-1453)とうたわれている。筑紫から海路上京する時の歌(4-558)や、荒津の海(福岡市中央区西公園付近の海)から帰京する時のものと思しき歌(12-3217)も、海路の安全を祈るための幣であろう。また七夕歌の例は、「天の川 瀬ごとに幣を 奉る 情は君に 幸く来ませと」(10-2069)と、牽牛が天の川を無事に渡って来られるようにと、織女の立場でうたったもの。防人関係の歌にも使用例が多い。家で待つ「妹」が「国々の 神の社に 幣奉り」(20-4391)、道中では「神のみ坂に 幣奉り」(20-4402)、難波津からの航海に先立っては「住吉の 我が皇神に 幣奉り」(20-4408)、任地にあっては「天地の 神に幣置き」(20-4426)、無事の帰還を祈っている。峠で奉られた幣の例も多い。長屋王は「寧楽の手向け」(奈良山を越え山背へと続く道)に幣を置き(3-330)、大伴池主は砺波山(富山県小矢部市の倶利伽羅峠のある山)の「手向けの神に 幣奉り」(17-4008)、峠を越えている。三関の一つ逢坂山を越える時は、峠の入口の「山科の石田の社」(京都市山科区小山神無森町)に幣を「取り向け」た(13-3236)。石上乙麻呂が土佐に流された時も、「恐き坂に 幣奉り」(6-1022)つつ下っている。本沢雅史「上代における『幣』についての一考察」『皇學館大學神道研究所所報』36号。飯泉健司「手向けの民俗」『万葉民俗学を学ぶ人のために』(世界思想社)。
執筆者 梶川信行