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万葉神事語辞典


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項目名 なら
表記 寧楽
Title
Nara
テキスト内容 ナラとは緩傾斜地を意味する語で、もとは奈良市の北側に広がる標高100メートル前後の丘陵地を言った。奈良山である。その一画の奈良市奈良阪町に、式内社奈良豆比古神社が鎮座し、現在は施基親王・平城津彦神・春日王が祀られている。しかし、施基親王が祀られるようになったのは、770(宝亀元)年、光仁天皇が即位したことで、施基が春日宮天皇と追尊された後のことであろう。元来は平城津彦を祀る神社であり、奈良の産土神であったと考えられる。その地名の起源については、紀の崇神天皇10年9月条に、「進みて那羅山に登りて軍す。時に官軍屯聚みて、草木を蹢跙す。因りて其の山を号けて、那羅山と曰ふ」と見える。付会的な地名起源説話に過ぎないが、確かに平城宮跡からの奈良山は、踏み均されたかのような低い丘陵に見える。万葉集では「寧楽」ばかりでなく、「奈良」「名良」「平城」「平」「楢」などと、さまざまに表記される。平城京に遷都される前の例は、当然すべて奈良山を指すが、遷都後は、平城宮あるいは平城京を指すものが中心となる。同様に、「あをによし奈良」の用例も、平城京に遷都される前は奈良山の属性に関わるものだったが、遷都後は「奈良の都」を称えるものとなる。ところが「寧楽」の例は、平城宮(京)に限定される。それは安んじ楽しむ意で、「あをによし 寧楽の京師は 咲く花の にほふがごとく 今盛りなり」(3-328)という歌にも見られるように、平城京を褒め称える表記である。歌の表記は「奈良」が多数を占め、「平城」も見られるものの、題詞等の漢文体の用例はすべて「寧楽」であって、「平城」はない。一方『続日本紀』では、久邇京に遷都された時期に「奈良」とされた例を唯一の例外として、すべて「平城」と表記され、「寧楽」の用例はない。なお、奈良の都がうたわれる場合は、どのような表記であれ、懐かしき所、郷愁を誘う場所として捉えられる傾向が強い。
執筆者 梶川信行