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万葉神事語辞典


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項目名 なつみ
表記 菜摘み
Title
Natsumi
テキスト内容 新しく芽生えた植物の生命力を身に付着させるための春の遊びで、国見の中の行事とされている(『全注』など)。雄略天皇の巻頭歌に「この岡に 菜摘ます児 家告らせ 名告らせね」(1-1)と見える。他には、「朝菜摘み」が1例(6-957)、「春菜摘み」が5例(8-1421、1427、1442、10-1919、17-3969)、「浜菜摘み」が1例(13-3243)見られる。これらの例が全て生命力を身につけるためのものとは限らない。「朝菜摘み」は、朝食のために用意された海草(『全注』)である。「浜菜」とはわかめや岩のりなどの食用の海草を指すが、歌は旅中で出会った娘子が、それらを摘んでいる様を詠んでいる。対して「春菜摘み」の大半が、春の霊威を身に付けるため摘まれた若菜である。鎌倉時代に成立したとされる『年中行事秘抄』によれば、上の子の日に、内蔵司、内膳司から若菜12種、若菜・薊・苣・芹・蕨・薺・葵・芝・蓬・水蓼・水雲・菘が献上されたとしている。万葉集では、山部赤人の有名な歌に「春の野に すみれ摘みにと」と、12種以外のものが詠まれている。古橋信孝は、野遊びでの遊興的な気分を出すため「すみれ摘み」としたものだとしている。もともと菜摘みという行事は、春先に民間で行われていたものであった。宮廷に取り入れられる過程で次第に制度化、儀礼化されたのである。巻頭歌の「菜摘ます児」は、6つの御県の女刀禰のことであり、土地を代表して皇御孫の命に御膳を献る(「巻頭歌の意義」)とも言われる。一種の服属儀礼としての天皇への若菜献上であるが、それはこの歌が雄略天皇の歌であるという理解に基づくものである。もとは共同体で行われた歌垣の歌謡である可能性もあり、この菜摘みも民間で行われたものであろう。土橋寛『古代歌謡と儀礼の研究』(岩波書店)。桜井満「巻頭歌の意義-儀礼と神話の間」『萬葉集研究 第十集』(塙書房)。古橋信孝『古代都市の文芸生活』(大修館書店)。
執筆者 野口恵子