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万葉神事語辞典


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項目名 とよはたぐも
表記 豊旗雲
Title
Toyohatagumo
テキスト内容 「とよ」は豊かで充足した意を持つ称詞。「豊浦(とゆら)」「豊葦原瑞穂国」「豊秋津洲」などの宮・国号、「豊受大神」「豊雲野神」などの神名、「豊宴(とよのあかり)・豊明」「豊御酒」「豊竈(とよへつひ)」(神楽歌)、「豊栄登(とよさかのぼり)」(祝詞)、「豊寿(とよほく)」などの神事関係語彙につくことが多い。万葉集でも「豊御酒」「豊宴」の他「豊国・豊州」(3-311、12-3130)、「豊の稔(とし)」(17-3925)、「豊泊瀬道(は常滑の恐(かしこ)き道そ)」(11-2511)と、神事的呪想の強い語に限って称詞として機能している。したがって「豊旗雲」にも同様の観想を読み取ることができる。「旗雲」は空に大きく旗のように棚引いている雲。豊旗雲の解釈には①海雲の古語・海雲(古本の朱書傍注、『袖中抄』、『僻案抄』)②瑞雲、めでたい雲(『瑞応図』・『全注』)③海神の旗(『代匠記』)、④雲のはたて(『無名抄』)⑤わたつみ・豊・旗は神に属する語であり、海神の宮殿の上高くたなびく赤い旗という神話的イメージの横雲(西郷信綱「詩と言語」『詩の発生』未来社)、がある。また、『懐風藻』の「雲旌張嶺前」(大津皇子)や、常陸国風土記行方郡にある建借間の命が賊を欺くため「雲の蓋(きぬがさ)を飛(ひるが)へし、虹の旌(はた)を張」って杵島曲(きしまぶり)を歌い舞ったという表現が参考になろう。万葉集の例は「中大兄三山歌」の反歌1例のみ。「わたつみの豊旗雲に入日見し今夜の月夜さやけかりこそ」(1-15)(海上に棚引く豊旗雲にあかあかと差す入日を見た。今夜の月は明るく清かであってほしい)と歌う。この歌が通説のように百済救援のために、白村江の戦い(663年)に出兵する途中に詠まれたものとすると、「豊旗雲」は実景を超えた、神秘的な霊威の徴証として解される。旗雲は、文徳実録の天安2(858)年6月11日に「有白雲自艮亘坤。時人謂之旗雲。」、同年8月19日に「有雲竟天。自艮至坤。人謂之旗雲。」とあるが、前後の記事内容から凶兆と解され、万葉歌とは異なっている。
執筆者 升田淑子