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万葉神事語辞典


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項目名 つるばみ
表記
Title
Tsurubami
テキスト内容 上代では「つるはみ」と清音だったと考えられている。橡は、ブナ科の落葉高木のクヌギ。5月頃に花をつけ、秋に丸みのある大きなドングリをつける。ドングリの実を煮出して、鉄を媒染剤に用い紺黒色の染料として利用した。この染料で染めた衣服は、上代にはおもに庶民用で、衣服令に「家人奴婢、橡黒衣」とあり、身分の低い者の衣服の色であった。万葉集には6例あるが、植物としての橡はなく、すべて染料としての橡である。橡で染めた衣である「橡衣」(7-1311)は誰もが着易いというのを聞いたので着てみたいと望む歌があり、「橡衣」は身分の低い女を表し、その女との関係を望む意の歌であろう。また「橡の解き洗ひ衣」(7-1314)は、橡で染めた衣で解いて洗って仕立て直した衣、つまり気軽に着ることが出来る着馴れた衣のことで、昔なじみの身分の低い女を比喩していると考えられる。他に「うら」を起こす序として「橡染めの袷の衣」(12-2965)や「橡の一重の衣」(12-2968)が用いられていたり、「橡の衣解き洗ひ」(12-3009)が真土山の「まつ」を起こす序として用いられていたりする。洗うと硬くなる麻の衣を「また打ち」することからの連想らしい。大伴家持は歌の中で、「紅」は色あせるものだが、と美しい遊女を「紅」にたとえ、その美しさは変わりやすいものだと諭し、「橡のなれにし衣」(18-4109)には及ばない、つまり橡染めの着馴れて身になじんだ衣のような糟糠の妻は地味だが飽きがこなくて良いと詠んでいる。
執筆者 大脇由紀子