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万葉神事語辞典


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項目名 つくよみをとこ
項目名(旧かな) つくよみおとこ
表記 月読壮人
Title
Tsukuyomiwotoko / Tsukuyomiotoko
テキスト内容 記紀のツクヨミノミコトに由来し、月神を男性に見立て人格化した名称。(6-985、7-1372)の2例のみ。ツクヨミのヨミは、月の満ち欠けで月(つき)を読む、数える意。日を数えるコ(日ヒの転音)ヨミと対。男性と見立てた理由は、記紀で黄泉の国から帰ったイザナキ神の禊(みそぎ)の際に、日神の対偶神として生成(左目アマテラスオホミカミ、右目ツクヨミノミコト)され、日神が女性神だからである。しかし、記紀からだけでは万葉集の当該語への経路を充分に説明できない。解決の糸口を与えたのは、ロシア人のニコライ・ネフスキーが1926(大正15)年に、沖縄宮古群島で採集した月の斑点を「男(アカリヤザガマ)が二つの桶を天秤棒につけて運ぶ姿」と見る民話であった。話は、月には変若水(をちみず)(不死水)と死水(しゅみず)とがあり、月神は、人間には変若水を蛇には死水を浴びせようと、男を使者にする。しかし、蛇が変若水を浴びてしまったので、月に帰った男は永遠に二つの桶を担がされる体罰を受けることになる。一方で月神は、人間を憐れみ毎年節祭(しつ)の祭日に向かう夜、大空から若水を送ることにした。この報告を受けた折口信夫は、日本の正月のおち水や古代語ヲツ(若返る意)の背景を、沖縄で初春の日に常世からスデ水が来るとの俗信や、琉球語のシジュン・スデルには蘇える意があり、更に若返る意となったことから説明した。折口の説を受けた石田英一郎は、月の斑点を水を運ぶ人間の姿と見る俗信は、ユーラシア大陸・北米大陸の西北・沖縄を含む西南太平洋に及ぶ広大な分布を示していることや、「月読の持てるをち水」(13-3245)を根拠にして、万葉歌成立の時代には、日本列島の内地にも沖縄の様な月の若返りの水の信仰が、万葉人の心のなかに生きていたと、当該語成立の背景を明らかにした。したがって、当該語は、民俗的語彙と認められる。石田英一郎「月と不死」『桃太郎の母』(講談社)。
執筆者 板垣徹