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万葉神事語辞典


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項目名 つきたち
表記 月立ち
Title
Tsukitachi
テキスト内容 月が現れること。もしくは暦の上で月が改まり、新しい月が始まること。朔日を一日(つきたち)というのは月顕(つきた)ちのイ音便。月齢では、新月をあらわす。万葉集では「月立つ」「立つ月」など14例ほど見られる。月の満ち欠けや運行によって月日を数えることが太陰暦の基本的原理であり、夜の時間の推移や舟の出航時間、方角も月の出が目安となったから、ことに月の出は注意された。ただ、実際に新月もしくは月が現れるという用例は、万葉集の用語例では相聞歌に多く歌われ、遠く離れている恋人やツマ(夫・妻)を偲ぶよすがとしたり、待ち遠しい心情の比喩として歌われることが多い。暦月の例としては「あらたまの」という枕詞を冠し(8-1620、13-3324、15-3683)、立夏に「卯の花」(18-4066、4089)や「霍公鳥」(17-3983、19-4196)を歌い、「時」に限定して用いる(17-4008)などがそれであり、大伴坂上郎女の「初月の歌」の「月立而ただ三日月の眉根掻き」(6-993)は、新月とも暦月とも取れる例である。山の端に立つ月を詠んだ「朝月の日向の山に月立所見」(7-1294)、「味酒の三諸の山に立月之」(11-2512)、「小筑波の祢呂尓都久多思」(14-3395)は単に月があらわれたとも見うるが、月末に月の見えない夜があることをふまえた表現で、新月が西の空に現れたことと限定する解釈もある。また、古事記のヤマトタケル東征物語で、ヤマトタケルがミヤズヒメの着ている襲衣(おすひ)の襴(すそ)に「都紀多知迩祁理(つきたちにけり)」と歌い、ミヤズヒメが「都紀多々那牟余(つきたたなむよ)」と答えたのは、「月立つ」に新月が現れることや新しく暦月が始まる意のあることを示すと共に、「月立つ」が月の障りを比喩的にあらわしていたことを示している。『全注』は14-3395について、女性の月経が始まったことを下に込めていると見ることもできるとする。青木周平「倭建命東征物語と「月立ち」問答歌」『中京大上代文学論究』6。
執筆者 伊藤高雄