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万葉神事語辞典


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項目名 たまにぬく
表記 玉爾貫、珠爾貫、玉貫、球貫
Title
Tamaninuku
テキスト内容 真珠などの宝玉や特別な石・植物を玉にして緒(糸・紐)に貫き通す。玉と霊・魂のタマとは語源を同じくする。タマはすべての生命・存在の根源にかかわって畏怖と信仰の対象となり、玉はタマの寄り籠る器として観想され、呪術や神事に用いられる。この古代相を基層とした語。①万葉集には、生命力旺盛な呪物竹を玉に用いた例がある。「斎瓮(いはひべ)を 斎ひ掘り据ゑ 竹玉を しじに貫き垂れ」(3-379)、「枕辺に 斎瓮を据ゑ 竹玉を 間なく貫き垂れ」(3-420)。②植物の花や実を緒に貫いて環状に結び、手や頸に巻いたり頭に載せて鬘(かづら)にする。万葉集では橘、菖蒲(あやめぐさ)(現在のしょうぶ)、楝(あふち)(せんだん)。このうち「たまにぬく」の用例は橘と菖蒲に集中し、それぞれが単独であったり「あやめぐさ 花橘を 玉に貫き」(3-423)、「あやめ草 花橘に 貫き交じへ」(18-4101)、「あやめ草 花橘に 合へも貫く」(18-4102)のように2種を交えて貫く形で詠まれる。さらに霍公鳥(ほととぎす)の声を重ねて「ほととぎす 鳴く五月には あやめぐさ 花橘を 玉に貫き」(3-423)、「あやめぐさ 花橘を 娘子らが 玉貫くまでに…(中略)…鳴きとよむれど なにか飽き足らむ」(19-4166)と歌う(この例延約40)。古今集以降には見られない取り合わせで、万葉独特の表現世界を持つ。菖蒲と橘の玉を、平安朝以降盛んになる中国渡来の、5月5日端午の節句の薬玉と見る説(『拾穂抄』以降最も多い)もあるが、『荊楚歳時記』の浴蘭節やいわゆる薬玉の様式は希薄である。歌は万葉後期大伴家持周辺にほぼ限られており、節句を契機として、4・5月の季節を古代に回帰する発想で賛美し、風流を極めて歌を楽しんだと考えられる。「たまにぬく」はむしろ記紀神話の「玉の御統(みすまる)」(多くの玉を緒に貫き統べる)が発想の基底にあるか。「玉の御統」は玲瓏と音を発する。霍公鳥の声が玉に合え貫くとは、その音に擬えた神秘な声という神話的発想があったか。
執筆者 升田淑子