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万葉神事語辞典


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項目名 たかひかる
表記 高光る
Title
Takahikaru
テキスト内容 記の歌謡・万葉集に見られ、大半が「日の皇子」に冠して用いられるが、「日の宮人」(記)、「日の大朝廷(おほみかど)」(5-894)に冠した例もあり、高く光り輝く意で日にかかる枕詞と考えられる。もっとも、万葉集には仮名書き例がなく、「高光」「高輝」「高照」の表記についてタカヒカル・タカテラスとよみ分けるか、すべてをタカテラスとよむかで古来論議がある。万葉集の表記例のうち、「高照」については対象が明記されない1例(13-3234)を除くと、他は天武天皇・持統天皇・軽皇子(後の文武)に限られるという顕著な特色があり、「光」「輝」の訓義ともかかわってよみ分けを考える傾向が強い。それによると、「高光る」の例はいずれも持統朝の作で、日の皇子とたたえられた人物も草壁(2-171、1731)、長(3-239)、新田部(3-261)、弓削(2-204)と、天武の皇子に限られている。一方、記の例でその対象されるのは倭健命、仁徳天皇、雄略天皇の3名である。西條勉は、天武朝に顕在化する現神(あきつかみ)の思想に注目して、オホキミからヒノミコへの統治者像の質的な転換を指摘し、「高光る日の皇子」の表現は、「高照らす」に先だって「天武朝のころに作られたものであろう」(「天皇号の成立と王権神話」)とする。天皇が現神として統治の資格を獲得する、即位時の大嘗祭が成立するのも天武朝から持統朝にかけての時期であり、持統の大嘗祭は、天武朝に編纂された浄御原令での成文化を受けて行われたことが岡田精司によって指摘されている。こうした祭祀の制度化の動向ともかかわりつつ、宮廷の日の神の信仰を背景に、現神としての天皇をたたえる表現として「高光る」の賛辞は生み出されたのであろう。記の雄略条に「日の皇子」「日の宮人」を被修飾語とする例が、ともに新嘗祭を背景にもつ「天語歌」に所出することもその点で注意される。一方、続く持統朝には、天皇に対する神格化表現として新たに「高照らす」の語が生み出され、「高光る」の語は、もっぱら天武の皇子に対する賛美表現として使用されたものと考えられる。 橋本達雄「タカヒカル・タカテラス考」『万葉集の時空』(笠間書院)。西條勉「天皇号の成立と王権神 話」『東アジアの古代文化』98号(大和書房)。西條勉「ヒルメとヒノミコの神話」『古事記と王家の系 譜学』(笠間書院)。岡田精司「大化前代の服属儀礼と新嘗」『古代王権の祭祀と神話』(塙書房)。
執筆者 菊地義裕