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万葉神事語辞典


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項目名 そで
表記
Title
Sode
テキスト内容 着物の左右にあって、腕を通す部分。衣手。古くから袖には霊魂が宿ると信じられてきた。「袖振る」は愛情を示したり、別れを惜しむ行為であるが、相手の魂を招き寄せる方法で、魂乞いの一方法である。万葉集中では、柿本人麻呂が「娘子らが袖布留山」(4-501)と詠み、石上神宮の「布留」を起こす序であるが、これは巫女が神を招き寄せる舞の姿であろう。柿本人麻呂はまた「石見国より妻を別れて上り来る時の歌」の反歌(2-132)で、石見のこの高角山の木々のあたりから私の振っている袖を妻は見ているだろうか、と詠む。旅行く人麻呂が高角山に登り妻がいる方向に向かって袖を振るのは、袖振りの信仰のもとに別れてきた妻の魂を招き、一緒にあることを強く願望するからである。また、大宰府の長官大伴卿が都に向かって出発した時に、児島という遊女が自ら袖を振って「大和道は雲の彼方です、雲隠れてお目にふれずとも、どうか私の振る袖を無礼とお思いくださいますな」(6-966)との送別歌を口ずさんだと伝える。旅人が袖を振って魂を招きよせるように、袖を振って旅人の無事を祈ったのであろう。さらに、肥前国風土記松浦郡の弟日姫子説話に、弟日姫子が山に登り、領巾を振ったので「褶振の峯」という伝説があり、袖振りの習慣は、古くは領巾振りの習慣と重なっていたことが知られる。また、妻のあたりに向かって私は袖を振りたいとの歌(7-1085)のように、恋歌では相手の魂を自分のところに呼び寄せて逢瀬を願うものとして歌われる。さらに袖を折り返して寝ると恋する人が夢に見える(12-2937)との歌も見え、古代には袖を折り返して寝ると恋人に逢えると信じられたのである。このように、袖を振ることは魂乞いの方法であったことが知られる。
執筆者 曹咏梅