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万葉神事語辞典


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項目名 しるし
表記 験、効、印、標、表、記
Title
Shirushi
テキスト内容 神仏への祈願や呪術的行為に対して現れるなんらかの現象や形。そこから派生した、人に対する願望の思念や行為の結果。①証、よすが、瑞、兆し。「しるす」の名詞形。「新しき 年の初めに 豊の稔(とし) しるすとならし 雪の降れるは」(17-3925)と「降る雪を 腰になづみて 参り来し 験もあるか 年の初めに」(19-4230)とが雪を瑞祥として新年の豊栄を予兆した意にあることで、それをよく示している。イ、証「引馬野に にほふ榛原 入り乱れ 衣にほはせ 旅のしるしに」(1-57)、「あぶり干す 人もあれやも 濡れ衣を 家には遣らな 旅のしるしに」(9-1688)、「ひさかたの 天つしるしと 水無し川 隔てて置きし 神代し恨めし」(10-2007)。ロ、よすが「親族どち い行き集り 永き代に 標にせむと 遠き代に 語り継がむと」(9-1809)、「処女らが 後のしるしと 黄楊小櫛 生ひ代はり生ひて なびきけらしも」(19-4212)。ハ、瑞「食す国も 四方の人をも あぶさはず 恵みたまへば 古ゆ なかりし瑞 度まねく 申したまひぬ」(19-4254)。②霊験、効験。「しる(知)」、これと関係のある「しるし(著・灼)」に通じる。始原的には、神の心意を何らかの現象や形によって明らかに知覚できるものをさす。垂仁記(本牟智和気の御子)に、「此の大神を拝むに因りて、誠に験有らば、是の鷺巣池の樹に住む鷺や、うけひ落ちよ」とある。逸文伊勢国風土記(伊勢津彦の国譲り)に「汝の去(ゆ)く時、何を以ちてか験となさむ」と言う天日別命に、伊勢津彦はうけいをし、その通り大風大波を起こして光曜(かがや)きながら東に去る話がある。しるしは、神の心を知る「うけひ」とも関係した。「高麗錦(こまにしき) 紐の結びも 解き放(さ)けず 斎(いは)ひて待てど 験なきかも」(12-2975)。③甲斐、効果。特に②を基層として発展したもの。万葉集では自分の思いや行為の結果に対する強い期待を根底に置き、「ある、なし」で表現される。多くは「とも、ど、ども」の逆接と結びついて「なし」で表現され、「あり」の場合は「あらめやも」と、反語をとる形が多く、心理的影響を強く受けて落胆や後悔などの意味を引き出す。「思へども 験もなしと 知るものを なにかここだく 我が恋ひ渡る」(4-658)、「まそ鏡 持てれど我は 験なし 君が徒歩(かち)より なづみ行く見れば」(13-3316)、「橘を やどに植ゑ生ほし 立ちて居て 後に悔ゆとも 験あらめやも」(3-410)。高野正美「<知る>と<しるす>」『古代語を読む』(古代語誌刊行会編)。
執筆者 升田淑子