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万葉神事語辞典


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項目名 しめ
表記
Title
Shime
テキスト内容 神域であることを示したり、自分の所有であることを示したりするための標識、あるいは結界として張られた縄のことで、その中への立ち入りを禁ずるためもの。たとえば、額田王の蒲生野の歌(1-20)の「標野」が、その典型である。また、道しるべと見られる例もある。但馬皇女の歌(2-115)に見られる「道の隈廻」に結った「標」である。その多くは〈結ふ〉ものだが、〈刺す〉もの、〈立つ〉もの、〈延ゆ〉ものもある。山・野・港・墓所などに、杭を打ったり、縄を張ったり、人目につくような印をつけたりしたのであろう。占有するという意の動詞〈標む〉の例も見られる。天智天皇の崩御に際しての額田王の「大御船 泊てし泊まりに 標結はましを」(2-151)と、石川夫人の「誰がために 山に標結ふ 君もあらなくに」(2-154)の「標」は、他界に赴くことを阻止するための注連縄であろう。しかし、万葉集では譬喩歌に集録された歌々を中心に、恋の歌の中で譬喩として用いられた例が圧倒的に多い。たとえば、余明軍の「標結ひて 我が定めてし 住吉の 浜の小松は 後も我が松」(3-394)が、その典型である。「標結ひて 我が定めてし」「小松」は、許嫁の意。大伴駿河麻呂の「梅の花 咲きて散りぬと 人は言へど 我が標結ひし 枝ならめやも」(3-400)の「我が標結ひし枝」も同じ。大伴坂上郎女の「山守が ありける知らに その山に 標結ひ立てて 結ひの恥しつ」(3-401)は、すでに配偶者がいることを知らずに、思いを寄せていた自分を恥じる歌。ここに見られる「松」「梅」「山」は異性を暗示し、「標」によって自分の所有であることを示す例だが、こうした例は枚挙にいとまがない。中には、「標結ひし妹」という直截的な言い方も見られる。「かくしてや なほやなりなむ 大荒木の 浮田の社の 標にあらなくに」(11-2839)のように、神聖であるがゆえに手に触れることが許されないものの意と見られる例もある。成就しない恋をうたったものであろう。大伴家持には、客をもてなすために、大切に保存しておいたことを言うための「標」の例もある。「今日のためと 思ひて標めし あしひきの 尾の上の桜 かく咲きにけり」(19-4151)という歌である。松原善雄「『標』の民俗」『上代文学』1号。浅見徹「標結へ我が夫」『万葉学論攷』(続群書類従完成会)。
執筆者 梶川信行