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万葉神事語辞典


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項目名 くに
表記
Title
Kuni
テキスト内容 区切られた領域・行政的な単位。人間が住む生活領域を指すことばとしてはクニ(国)・ムラ(村)・サト(里)・コホリ(郡)等があるが、万葉集の歌にはムラ・コホリは見られない。これらはともに朝鮮語とみられており、在来の和語としてはクニ・サトが生活領域をあらわす語彙であった。クニは77例、サトは76例、用例もほぼ同数であるが、意味的には顕著な違いがみられる。すなわち、クニの用例中、40例ほどは「知らすクニ」「食すクニ」「まつろはぬクニ」等々、地方的レベルと国家的レベルの別にかかわらず、統治すべきものとしての行政的、政治的な領域を示す語として用いられる。クニは治めるべき場所であり、「国占め」という語に見られるように占めるべき領域であった。これに対してサトは「我が住むサトに」(15-3783)、「サト見ればサトも住み良し」(6-1047)などに典型的に示されるように、住むべき場所というニュアンスが強い。語源的には、サト(sato)のトはミナト(minato)、セト(seto)等のト(to)で、特定の場所を示す語、サは神聖さをあらわす接頭語であろう。人の住む場所を讃美する語である。一方、クニは境界をあらわすクネ(方言)と関連があると思われる。クニの本義が区切られた空間であるとすれば、この語が行政的な領域を示す語として定着する理由は理解しやすくなる。漢字は「邦」(9-1800)、「本郷」(19-4144)が各1例、他はすべて「国」が当てられている。「邦」は「封」に同じく、天子から領有を認められた封土の意であるが、「国(國)」は境界線で囲まれた土地のことをいう。和語のクニと漢字の國は、互いに相通ずる意味をもつ語であった。「天の下に クニはしも さはにあれども」(1-36)のようなアメ/クニの対は天下思想に基づくもので、天の下界である地上のすべてを一つの領域として観念できるようになってからの表現である。
執筆者 西條勉