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万葉神事語辞典


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項目名 くしみたま
表記 奇魂・奇し御魂
Title
Kushimitama
テキスト内容 原義的には、霊威的もしくは神秘的な働きをする力を有する神霊をさす。幸福を与える「幸魂」とともに、神霊のなごやかな面を表す「和魂」を成している。紀では、神代上第八段一書第六の本文2例と訓注1例(「奇魂、此には倶斯美拕磨と云ふ」)にみられる。本文によると、独力での国作りを終えて出雲国に辿り着いた大己貴神が、国土経営の協力者を求める言挙げを行ったところ、海から光を照らして寄り来る神があった。大己貴神が神の正体を訊ねると「吾は是汝が幸魂奇魂なり」と答える。それを聞いた大己貴神は「唯然(しか)なり。廼(すなは)ち知りぬ、汝は是吾が幸魂奇魂なり」と言う。当該例にみる奇魂とは、大己貴神自身の有している神秘的な霊魂のことを意味しており、その霊力によって今までの国作りをも成し得てきたことがわかる。一方、万葉集では紀のそれとはやや異なる性格の語として登場しており、神秘的な霊力を宿す事物の呼称として用いているものとみられる。万葉集における用例は、山上憶良の作歌「鎮懐石歌」にみられる2例のみであり、付されている序文や左注によって、作歌事情を詳細に知ることができる。それによると、新羅親征の際、のちの応神天皇を宿していてまさに臨月に当たっていた神功皇后は、腰に石を二つ挟んで出産を遅らせた。筑前国那珂郡出身の建部牛麻呂は、そのときの石が怡土郡深江村子負の原の、海を臨む丘の上で道路のほとりにあたる場所に残存しており、そこを行き交う人々はみな礼拝して通ることを、憶良に言い伝えた。この口頭伝誦に発想を得て、憶良は「鎮懐石歌」を詠んだのである。奇魂の用例をみると「神ながら 神さびいます 奇し御魂」(5-813)、「此の奇し御魂敷かしけらしも」(5-814)とあって、霊妙な力を発揮したと伝えられる2つの石を意味する。これは魂に玉の意を掛けたものとも論じられている。
執筆者 小林真美