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万葉神事語辞典


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項目名 くしげ
表記
Title
Kushige
テキスト内容  ①化粧道具や装身具をしまっておく箱。クシは櫛、ケは「笥」(容器)の意。②枕詞。「玉くしげ」のかたちをとる。容器であるため、「おほふ」(1例)、「明く(開く)」(5例)や、底深くしまいこむ意で「奥」(1例)にかかり、また「蓋」、「身(蓋に覆われる側の箱)」の掛詞として「二上山」(4例)や「みもろ(みむろ)」(3例)にかかる。「蘆城の川」(8-1531)にかかる1例もあるが、かかりかたは未詳。①で箱に納められるのは櫛だけではない。万葉集の表記は、仮名以外はほとんどが小箱の意の「匣」で、その他には長方形で書物や服を納める箱の意の「篋」が2例あるのみだ。「臣(おみ)の女(め)の 櫛笥(くしげ)に乗れる 鏡なす」(4-509)のように鏡を納めている場合などもあって、貴重品や宝物の収蔵箱だったらしい。なので、櫛を納めている場合でも、「娘子(をとめ)らが 玉櫛笥なる 玉櫛の 神(かむ)さびけむも 妹に逢はずあれば」(4-522)のように長く使われずに古びることが比喩としてうたわれたりする。めったに中身を人目に晒さないために、「我が思ひを 人に知るれや 玉櫛笥 開き明けつと 夢にし見ゆる」(4-591)と、夢で櫛笥が開けられたことが秘めた思いを知られてしまったことの兆しとして受け取られたりもしている。浦島子を詠んだ高橋虫麻呂の長歌(9-1740)でも、島子は故郷に帰る際、海神の娘に櫛笥を持たされる。中には彼の若さが封じられていたらしい。海神が櫛笥の中に玉を秘蔵している(19-4220)と詠まれている歌もあり、この描写には華厳経や大智度論など仏典からの引用が指摘されているが、ともあれ海中の他界の呪力は櫛笥に封じられていると考えられたようである。同じく玉を納めている場合でも、湯原王の贈答歌「草枕 旅には妻は 率(ゐ)たれども 櫛笥の内の 玉こそ思ほゆれ」(4-635)の「匣内之珠」は、女性の寓意である。これは中国晋朝の石崇「王明君辞」(『文選』巻27、『玉台新詠』巻2)の詩句「匣中玉」からの引用であるらしい。
執筆者 月岡道晴