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万葉神事語辞典


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項目名 きよし
表記 清し
Title
Kiyoshi
テキスト内容 ①汚れなく澄みきっていて美しいさま。②高潔であり名誉あるさま。③神聖であり尊いさま。①は「視覚にかかわる例」と「聴覚にかかわる例」とに大別できる。まず「視覚にかかわる例」では、河内・川原・川瀬・瀬・川波など川に関係する語についての例が多い。その表現の万葉集における嚆矢として、柿本人麻呂が作った「吉野讃歌」がある。その第一長歌(1-36)では、「山川の対比」に基づいて「山川の清き河内」と讃美される。この表現は笠金村の吉野讃歌(6-907)に踏襲されることとなった。また、渚・浜・浜辺・磯・底など海に関係する語についての例も多い。山部赤人は紀伊国行幸歌(6-917)において「清き渚」と歌い、車持千年は難波宮行幸歌(6-931)において「浜辺を清み」と歌った。こう見て来ると、万葉集に見る宮廷歌人たちにとって「清し」という語は、讃美の表現として重要な位置を占めていたことがわかる。他に、月光の澄みきっている美しさを歌うものが15例もある。そのうち大伴家持の若き頃の歌(8-1507)では、愛しい坂上大嬢との逢会の舞台が「まそ鏡 清き月夜」と設定された。次に「聴覚にかかわる例」では、川・瀬の音を採り上げる例が8例を数える。山部赤人の吉野讃歌(6-1005)は、前述の「山川の対比」にのっとるが、川の描写に聴覚を用い、「川速み 瀬の音そ清き」とする。また、老松の梢を吹く風の清らかさを歌った例(6-1042)もある。さらに、七夕歌群の1首(10-2043)では、「秋風の 清き夕に」と表現され、二星逢会が清々しく設定されている。②の例は、①の持つ汚れなく澄みきっているさまが倫理的側面で用いられた例。大伴家持の「陸奥国に金を出だす詔書を賀く歌」(18-4094)は、東大寺大仏建立のための黄金産出を喜ぶ聖武天皇の詔の中に大伴氏を褒める内容が含まれていたことへの感動をもとに詠まれた歌であり、「ますらをの 清きその名を」と歌われる。そこには清廉な心を持って昔から現在まで天皇に仕えて来た自負の念が込められている。また、『続日本紀』の第一詔には、文武天皇が臣下に求める心として「明(あか)き浄(きよ)き直(なほ)き誠の心」とある。③の例の「神奈備の 清き御田屋(みたや)の」(13-3223)で田を守る番屋に「御」と「清き」が付くのは、「神に捧げる米を作るために斎み清めたことを示すか」(『新全集』)。この神事の例以外にも、仏道を「清きその道」と歌う例もある(20-4469)。これらは宗教的な尊さを顕わしている。
執筆者 廣川晶輝