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万葉神事語辞典


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項目名 かむき
表記 神木
Title
Kamuki
テキスト内容 神社の神木。神の降臨する霊木で、手を触れると神罰(崇り)があるとされた。「神木」の語は万葉集に1例(4-517)のみであるけれども、その具体樹として杉・賢木(さかき)・槻(つき)などが詠まれている。杉は、奈良県桜井市にある三輪山の神を祭る大三輪神社や天理市の石上神宮の杉が著名で、「みもろの神の神杉(かむすぎ)」(2-156)、「味酒(うまさけ)を 三輪の祝(はふり)が 斎(いは)ふ杉」(4-712)、「神なびの みもろの山に 斎ふ杉」(13-3228)とあり、「石上(いそのかみ) 布留(ふる)の神杉」(10-1927、11-2417)と詠まれている。賢木は、今日のツバキ科の常緑樹をさすとされている。天の香具山の賢木は神招(お)ぎに用いられた(記紀)。大伴氏の氏神を祭る時に大伴坂上郎女が詠んだ「神を祭る歌」(3-379~380)には、清浄な「奥山の賢木」を用いて、これに白幣帛(ぬさ)を付け、神酒を盛った斎瓮(いはいへ)(神事用大型土器)を掘り据え、竹の管玉(くだたま)を緒にびっしり貫き垂らし、神前に膝を折り曲げてひれ伏し、襲(おすひ)(女性用浄衣)を肩に掛けて、神を祈るという神事の次第が記されている。槻はニレ科の落葉高木「けやき」の古名で、「軽(かる)の社(やしろ)の 斎(いは)ひ槻(つき)」(11-2656)、「泊瀬(はつせ)の斎槻(ゆつき)」(11-2353)とある。神木を詠み込む如上の歌々が異性への思いを詠んでいる点が注意される。このことは、記紀のイザナキ・イザナミの聖婚の場面の、天つ神の神霊の依り憑く聖樹の柱「天(あめ)の御柱(みはしら)」のように、神木が人間の男女の結びつきを見守る聖樹であり、神の承認のもと男女は結ばれると考えられていたからであろう。それゆえ、「斎槻」の歌例のように神木のもとに妻をひそかに隠らせ、神前結婚の歌(13-3228)に神木が歌われ、人妻への思いの歌には神木への禁忌を破って触れることが詠まれるのである。神木の関連語には、神が宿る「社(もり)」(森の意。8-1419の神なびの石瀬の社など)、神の依り代とし常緑樹を植え立てた「神籬(ひもろき)」(11-2657)、神域を限る常緑樹の瑞々しい垣「瑞垣(みづかき)」(11-2415,13-3262)などがある。
執筆者 鈴木武晴