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万葉神事語辞典


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項目名 かむおか
項目名(旧かな) かむをか
表記 神岡・神丘・神岳
Title
Kamuoka
テキスト内容 旧訓には「かみをか」とも訓む。山部赤人の神岳の歌に「みもろの 神奈備山に」(3-324)とあるように、カムナビ山、即ち神の坐す山を言い、集中の3例はいずれも飛鳥のカムナビ山を指す。『日本紀略』に見える829(天長6)年の飛鳥坐神社の遷祀記事から、同社が大和国高市郡賀美郷甘南備山にあったことが知られる。かつては雷丘や甘橿丘が比定されたが、明日香浄御原宮址が板蓋宮址と見られることから、岸俊男が橘寺南方のミハ山を比定した説を提示し、西宮一民などが支持している。これに対し、表記が神の山の意のミワ山ではなく、ミハ山であることなどから直木孝次郎が疑問を提起し、櫻井満がミワ山をミハ山と誤記する可能性の低さや小字名のミハ山が現地でも認知されず、信仰実態や伝承が皆無である点を挙げて、飛鳥の南端の南淵山を比定する説を提示した。櫻井は、万葉歌に詠まれた条件に最適の地であり、天武朝に草木の伐採が禁じられている(天武紀5年)こと、吉野行幸の往還として万葉人が関心を持っていたこと、神祭りの呪具と思われる「まそ鏡」が南淵山の枕詞となっている(10-2206)こと、同歌に黄葉が詠まれていること、飛鳥川の水源の山であること、皇極朝に天皇が南淵の川上で雨乞いを行い降雨を得たという記録が見える(皇極紀元年)こと、「お綱掛け神事」が伝わり、コンピラサンを祀り、春山入りを行う民俗行事もみられたことを根拠とする。南淵が水源の地として神事と関わる点は特に注目され、天武朝に草木伐採を禁じたことと併せて、飛鳥のカムナビが、「川とほしろし」と赤人の詠んだ飛鳥川と結びついた山であると思われる。また、天武朝の南淵山を詠んだ10-2206に「黄葉散るらむ」とあり、天武崩御時の大后(おおきさき)の歌(2-159)と大宝元年冬の紀伊行幸における歌(9-1676)にも「かむをか」の黄葉が詠まれていて、黄葉の山とされる点も注目される。岸俊男『宮都と木簡』(吉川弘文館)。直木孝次郎「甘橿岡の政治と宗教」『明日香風』7号。西宮一民『上代の和歌と言語』(和泉書院)。櫻井満『万葉集の民俗学的研究』(おうふう)。
執筆者 島田伸一郎