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万葉神事語辞典


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項目名 かみよ
表記 神代
Title
Kamiyo
テキスト内容 神々の時代。記紀には「神世七代」と見え、これを神世としたのは神々の出発する世代を指すからであろう。これに対して万葉集には多くの神代・神世が歌われる。香具山と畝傍山とが妻争いをしたのは神代からである(1-13)と言い、筑波山は明つ神の山であるので神代から見たい山だと言われている(3-382)と言い、神代から人は産まれ続けて国に人が満ちている(4-484)と言い、倭の国は言霊の幸わう国だと言われている(5-894)と言い、吉野の山川の清らかさを見ると神代から決まっているのだ(6-907)と言い、雑賀野から見る沖つ島の清らかさは神代からそのように貴くあるのだ(6-917)と言い、敏馬の浜は神世から船の集う良い浜だ(6-1067)と言い、天上の月は神代から照っているのだろう(7-1080)と言い、山城の久世の鷺坂は神代より春に芽吹き秋に葉を散らすのだ(9-1707)と言い、七夕二星を隔てた神世のことが恨めしい(10-2007)と言い、神南備の三諸山は神代から春は霞が立ち秋は紅葉すると伝えられている(13-3227)と言い、大汝や少彦名の神がいた神代から父母は尊いのだと言い伝えられている(18-4106)と言い、難波の宮には貢ぎの船が出入りする豊かな港がありそれは神代からのことだ(20-4360)と言う。このような神代観は、神代に一定の事柄が成立したことを基準として発想する態度であるが、一方、それは民族誌としての神々の体系が整理された結果であり、神々を信仰・畏怖としての対象から客観化することを可能にした結果である。そこには儒教主義の時代の到来(現実主義)があり、律令制度の新たな体系(神祇制度)が成立したことがある。このような状況の中から物事の始まりを神代に置くという考えが定着しながらも、神代は遠い過去の世界と理解されるようになった。いわば、神代とは「昔」の代名詞としての役割を持ち、また、神代と言えば物事が確信的・権威的に説明できるという効果もあり、神代が万葉集に多く現れるのは、このような時代観の成立の中から考えられよう。
執筆者 辰巳正明