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万葉神事語辞典


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項目名 かたる
表記 語る
Title
Kataru
テキスト内容 物事を話し聞かせる。言い聞かせる。「言う」が一般的なのに対して、聞き手を意識しながら、ひとまとまりの事柄や考え、ストーリーのあることを話し聞かせる点で、告ぐ・宣ると異なる。万葉集では、記憶に残すべき貴人の業績・死など特別の事柄に対して「語る」「語り継ぐ」が用いられている。その傾向は巻2~巻9に著しい。「我に語らく なにしかも もとなとぶらふ 聞けば音のみし泣かゆ 語れば 心そ痛き 天皇の 神の御門に…(中略)…いや遠長く 祖の名も 継ぎ行くものと 母父に 妻に子どもに 語らひて」(3-443)、「二人並び居 語らひし 心そむきて 家離りいます」(5-794)、「都を見むと 思ひつつ 語らひ居れど 己が身し 労はしければ」(5-886)、「我妹子に 告りて語らく しましくは 家に帰りて 父母に 事も語らひ」(9-1740)、「永き世の 語り継ぎ 偲ひ継ぎける」(9-1801)などがある。順に天皇の神の皇子の死、天皇の神御門に候う者の死、大伴郎女の死、熊凝の死、浦島子の死、葦屋の処女の死に関わる歌である。これは、神語り、喪の語り(2-230、19-4214)に通じる。死は、人の力では、どうしようもない世界であり、霊振りなど神の力によらねばならなかった時代の名残と考えられる。その背後には、「あしひきの山橘の色に出でよ語らひ継ぎ手逢ふこともあらむ」(4-669)の言霊に寄せる信仰もあったと考えられる。人間界の詠になってからは、「人言を繁みと君を鶉鳴く人の古家に語らひて遣りつ」(11-2799)、「我が背子が来むと語りし夜は過ぎぬしゑやさらさらしこり来めやも」(12-2870)、「波雲の 愛し妻と 語らはず 別れし来れば」(13-3276)、「家に行きて何を語らむあしひきの山ほととぎす声も鳴け」(19-4203)と男女の仲など、その不本意な場合に用いられている。
執筆者 阿部誠文