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万葉神事語辞典


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項目名 かたみ
表記 形見
Title
Katami
テキスト内容 その人の姿かたち(魂のこもったもの)として偲び見るものの意で、遠く離れて会えない人を思い出すよすがとなるものをいう。現代語よりも用法は広く、生死にかかわらず用いられる。万葉集の初見は、柿本人麻呂の安騎野供奉(あきのぐぶ)歌の第2首(1-47)「真草(まくさ)刈る荒野(あらの)」で、軽皇子を中心とする宮廷の一行が、軽の父草壁皇子が狩猟したこの地を形見の地としてやってきたことを詠む。人麻呂は明日香皇女挽歌(2-196~198)では、皇女の御名にゆかりの明日香川を皇女の形見として偲ぶことを歌う。いずれも土地を形見とする。一方、泣血哀慟歌では、亡妻が形見としてこの世に残し置いた「みどり子」が亡妻の面影を宿してあわれを誘う(2-210)。人麻呂歌集歌においても形見の地への執着が詠まれ、「紀伊(き)の国にして作る歌四首」(9-1796~9)では「潮気(しほけ)立つ荒磯」「黒牛潟」「真砂(まなご)」を形見として詠みこむ。また「池の辺の小槻(をつき)が下の小竹(しの)」の生えている場所は男との思い出を刻む形見の地(7-1276)。男女二人が植えた「松の木」を形見とする歌(11-2484)もある。如上の人麻呂作歌や人麻呂歌集歌と同様の用法は、古集の「形見の浦」(7-1199)に見られ、播磨国「印南都麻(いなみつま)」(15-3596)の地や「秋萩」(2-233)・「藤波」(8-1471)・「合歓木(ねぶ)の花」(8-1463)の植物に継承されている。形見の具体的物品としては「衣」が最も多く、「形見の衣」の表現も5例ほどを数える。衣は恋人や夫婦がお互いの安全を祈り再会を期して交換した肌着で、衣にこもる魂のぬくもりの呪力が信じられた。笠女郎歌(4-587)の「わが形見」は、響き合う第3首(4-589)に「衣手(ころもで)を 打廻(うちみ)の里に ある我を」とあることから「衣」と考えられる。衣以外の形見に「まそ鏡」(12-2978、13-3314、15-3765)や「蜻蛉領巾(あきつひれ)」(13-3314)がある。双方を詠みこむ巻13の3314番歌では、いずれの品も母から娘に受け継がれた大切な呪的形見である。
執筆者 鈴木武晴