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万葉神事語辞典


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項目名 かしこし
表記 畏・恐・懼
Title
Kashikoshi
テキスト内容 畏怖・畏敬の念を持たせる状態を形容することば。「大君の命かしこみ」は常套句といってよいほどの用例を持つが、この表現が示すように、畏怖・畏敬の念を持たせる状態にあるものは、多くの場合「大君」に属性を持つ対象である。また神を対象にしても用いられるが、「おほならばかもかもせむを畏みと振りたき袖を忍びてあるかも」(6-965)のように高貴な身分である相手にも用いられるようになる。「神」の属性にある対象は「かけまくも  ゆゆし畏し  住吉の  現人神」(6-1020)「かけまくの  ゆゆし畏き  住吉の  我が大御神」(19-4245)のような有名神、また「雲隠る小島の神」(7-1310)や「天雲に近く光りて鳴る神」(7-1369)のような無名神、自然神から「手向けする  畏の坂」(6-1022)「東の国の 畏きや  神の御坂」(9-1800)「足柄のみ坂」(14-3371)「畏きや  神の渡りは」(13-3335)「畏きや  神の渡りの」(13-3339)のように神が宿り旅に際して手向けをするべき場所などまで幅広い。序詞に「奥山の岩に苔生し畏くも」(6-962、7-1334)とあるのも神宿る場所をふまえての表現だろう。ほかには「海」の属性にあるものを対象とする用例もある。この範疇に入るものは、「海を畏み」(2-220)「 畏き海に」(6-1003)「畏き海を」(13-3339)といった「海」そのもの、「波を畏み」(7-1180)「波は畏し」(7-1232、7-1397)「波畏みと」(7-1390)「沖つ白波畏みと」(15-3673)などの「波」を対象とするもの、「わたつみの  畏き道」(15-3694)、「海原の  畏き道を」(20-4408)など航路を意味するものなどがある。これらは神への畏敬としての「かしこし」より自然現象の強さへの畏怖としての性格が強い。「海」に対して「三船の山は畏けど」(6-914)と、「山」を対象とするものもある。変わったところでは「言ふ言の畏き国ぞ」(4-683)という用例もあるが、総じて人麻呂や家持などの儀礼的な宮廷歌では神や大君を対象に畏敬の念が強く、巻7の歌のような非儀礼性の濃い歌では畏敬をふまえて畏怖の領域で用いられている傾向が見える。
執筆者 志水義夫