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万葉神事語辞典


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項目名 かざまつり
表記 風祭り
Title
Kazamatsuri
テキスト内容 「難波に経宿りて明日に還り来る時の歌一首」(9-1751)に、「名に負へる社に 風祭りせな」と見える。その長歌の内容は、島山を行き巡っている川沿いの岡辺の道を、私は昨日越えて来たばかりなのに、たった一晩寝ただけなのに、尾根の桜花は滝の瀬を散っては流れている、君が見るその日までは山おろしの風よ吹くなと、竜田山を越えて、その名(竜田)を負う社で風祭りをしよう、という意である。この歌は、藤原宇合を中心とした一行の、難波から大和への帰路に際して、高橋虫麻呂がうたった長歌である。万葉集では、この歌の前に、「春三月に、諸の卿大夫等の、難波に下る時の歌二首并せて短歌」(9-1747~1750)があり、それら往路の歌に対する帰路の歌と思われる。1751歌において、竜田社で風祭りをしようと歌ったのは、君(藤原宇合)に桜の花を見せたいからである。これを「主人の帰路のための桜の美景への願望を変わることなくうたっている点がほほえましい」(『釈注』)と評する見方もあるが、それだけであろうか。竜田風神祭は、紀によると675(天武4)年に始まる。この祭は、神祇令に孟夏(4月)、孟秋(7月)の祭と規定され、「風神祭」の『義解』に「欲令沴風不吹。稼穡滋登。」とある。『義解』によると、悪い風が吹かないで、作物の植え付けと取り入れが順調で豊かな実りをもたらすように祈る祭である。これは4月、7月の祭であるから、3月に桜の花を散らさないように祈る「風祭り」とは異なるのかもしれない。しかし、同じく神祇令に「季春鎮花祭」が見え、その義解に、「春花飛散之時」に疫病を退散させる祭の意とする。春花は桜の花のことであり、それが散らないように祈ることには、「桜の美景への願望」だけではなく、「君」が災い無く、安全に大和に還ることができるようにという願いが込められているのではないか。
執筆者 青木周平