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万葉神事語辞典


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項目名 かがみ
表記
Title
Kagami
テキスト内容 ①祭祀道具。②金属を磨いで平面に姿・形を写し出す道具。③月の比喩。④過去の伝統を手本とすることの比喩。①は古代に中国から銅鏡が伝来して、日本でも製造された。鏡は最初に祭祀道具(呪具)として使われたらしく、記紀の天の岩戸の前で行われた祭祀で榊に鏡を懸けたことが見える。また、古代の墳墓からも多くの鏡が出土する。三種の神器と呼ばれる宝器の一つとして鏡が数えられるのも、鏡は剣や玉と同じく、巫祝たちの神祭りの道具であったからであろう。万葉集にも「隠口の 泊瀬の川の 上つ瀬に 斎杭を打ち 下つ瀬に 真杭を打ち 斎杭には 鏡を懸け 真杭には 真玉を懸け」(13-3263)と、鏡を用いた神祭りの様子が歌われている。②は万葉集では自らの姿形を写す道具、心の真実を写す道具、形見の道具として見られる。それゆえに鏡は常に磨かれていなければならず、磨かれた鏡は「真澄鏡」(マソカガミ)と呼ばれた。「真澄鏡手に取り持ちて朝な朝な見む時さへや恋ひの繁けむ」(11-633)のように、曇りのない鏡として真澄鏡が詠まれ、それは男女の愛の真実を示す比喩ともされた。③は「真澄鏡清き月夜の移りなば思ひは止まず恋ひこそまさめ」(11-2670)のように、澄み切った鏡は清らかな満月の月に喩えられ、その輝きの中に愛する人の顔が浮かび、恋の思いは一層勝るのだという。呪具としての鏡の観念は継承されている。④は「見る人の 語りつぎてて 聞く人の 鏡にせむを」(20-4465)と詠まれ、古の伝統を見る者は語り継ぎ、それを聞く人のために手本とするのだということから、過去を振り返りよく考えることが鏡により比喩されている。このことから「カガミ」は、語源的に「カンガミル」、即ち、「考え見る」の約言だとされる。そのことにより後世では歴史物が「鏡」や「鑑」で表された。なお、鏡の字は音がケイで、意味は景・形を表し、秦漢の文字(加藤常賢『漢字の起原』)という。
執筆者 辰巳正明