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万葉神事語辞典


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項目名 うらしまのこ
表記 浦島の児
Title
Urashimanoko
テキスト内容 浦島伝説は異界訪問の話型に属する。ただし、異界訪問譚の大穴牟遅神の根之堅州国訪問譚や山幸彦の綿津見宮訪問と異なり、浦島伝説は成年式系の人格転換を語らず、神仙譚的性格をもち、不老不死への憧憬を基底にすえるところに特徴がある。日本の海人族の伝承に基づいたとしても、神仙思想の影響を強く受け、文芸的性格が強い。万葉集巻9の高橋虫麻呂の伝説歌「水江の浦島の子を詠む一首」(1740)も同じである。題詞の水江は歌中では「墨吉(すみのえ)」とあり、摂津の住吉か、丹後の筒川かの理解も揺れる。虫麻呂が何に基づいたかであるが、他の文献では一貫して丹後とする。彼の歌は神仙の女に誘われて常世に至り、「海若(わたつみ)の 神の宮」で仙女と不老不死の生活をしながら、一時の帰還を望んだ浦島子の行動を、「老いもせず 死にもせずして 永き世に ありけるものを 世の中の 愚か人の 吾妹子に 告げて語らく 須臾は 家に帰りて 父母に 事も告らひ 明日のごと われは来なむと 言ひければ」と「愚か人」の行動と批判して描く。儒教倫理あるいは人間の本然としての父母を思う気持より、永遠の生命と仙女との生活を楽しむことに価値を認めた物言に、この伝説歌の特徴がある。現存文献で、浦島子の物語を早く記録したものは他に紀、丹後国風土記佚文がある。紀は別記、佚文は先行する丹後之国司伊予部馬養の記があると伝える。雄略紀は蓬莱の島に到ったとする粗筋だけを伝え、丹後風土記佚文は与謝郡の人筒川嶋子が亀を釣り上げ、その化した姫に誘われて蓬莱嶋に渡り、三百年後に帰ってきたことを記す。鎌倉時代の説話集『古事談』は帰って来た時を繰り下げ、「淳和天皇御宇天長2(825)年乙巳、丹後国余佐郡人水の江浦嶌子、此年松船に乗りて故郷に到る」とする。平安初頭の「浦島子伝」、「続浦島子伝」は神仙譚的性格が強く、蓬莱の島での様子を詳述する。現在、浦島伝説を伝える土地は多く、宮津市伊根町筒川の宇良神社、木曾川の寝覚の床の臨川寺、香川県三豊郡詫間町大浜の浦島神社などは神社や寺とも結びつく。水野祐『古代社会と浦島伝説 上下』(雄山閣出版)。重松明久『浦島子伝』(現代思潮社)。三浦佑之『浦島太郎の文学史』(五柳書院)。増田早苗『浦島伝説にみる古代日本人の信仰』(知泉書館)。浅見徹『改稿玉手箱と打出の小槌』(和泉書院)。

執筆者 寺川眞知夫