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万葉神事語辞典


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項目名 いわう
項目名(旧かな) いはふ
表記 斎ふ
Title
Iwau
テキスト内容 上代(万葉時代)におけるイハフとは、大まかに捉えれば呪術や祭祀を行うという意味である。類義語に、イム、イツク、イノル、マツルがある。上代のイハフには現代語の「祝(いわ)う」のような祝福の意味は無い。上代のイハフにはかなり多様性があり、正確な意味を把握しづらいところがある。従来の説をいくつか紹介すると、まず『時代別国語大辞典』は「よいことが起こるようにと念じて、守るべきことを守りつつしむこと」とする。また金子武雄は「『わざはひ』や『けがれ』を近づけまいとする意図を有った呪術である」とする。また新谷正雄は、特に羈旅歌(きりょか)(旅の歌)のイハヒに注目して「『斎ひ』とは、家人、旅人双方が相手の無事を願う行為であったことと共に、それは『斎ひ』する人自身の無事をも意味する行為であった」とする。また土橋寛は「イハフは神聖化することである」「語源的には霊力・生命力を与えることである」とする。また西宮一民は、①吉事を求め神祭りをする、②神が人間を幸福・安全に護る、③人間が将来の幸福・安全を予祝する、の三つの意味あるとする。具体的に、まず万葉集のイハフを見ると、仮名で表記されるものと「斎」「忌」「鎮」等の漢字で表記されるものがある。用例としては、旅に出ている男性の無事を祈って身近な人物がイハフという例(8-1453、9-1790、12-3217、15-3583等)が非常に多い。つまり、イハフという行為の代表的なものの一つに、身近な者の身の安全を守るための呪術的行為をすることが挙げられる。この「身の安全を守る」という意味に関連すると考えられるのが、大切に守って育てられた箱入娘を指す斎児(いはひこ)(9-1807)、神に遣唐使達をイハフことを頼む(19-4240)、刀になってあなたをイハヒたいとする(20-4347)等の例である。また、思い人に会うため(3-379、4-708)や海中の玉を取る前(7-1319)の呪術的行為をすることもイハフと表現される。また神官が神社や木をイハフという例(7-1403、10-2309等)も散見される。具体的にどのような行為がイハフとされるかについては、斎瓮(いはひへ)を据える(3-379、9-1790等)、幣(ぬさ)を奉る(8-1453、12-3217)、櫛を見ず家の中を掃かない(19-4263)、裳の裾にしらかを付ける(19-4265)などがある。斎瓮(いはひへ)を据えるという行為は、記の崇神条や紀の崇神10年9月条にも見られる。また紀の神代第9段の「斎主の神」の斎主もイハヒと訓む。澤瀉久孝「萬葉に於ける『いはふ』『いむ』『いのる』」『神道史研究』1巻2号。金子武雄『上代の呪的信仰』(公論社)。吉田修作「いはふ」『古代語誌―古代語を読むⅡ―』(桜楓社)。土橋寛『日本語に探る古代信仰』(中公新書)。西宮一民「マツリの国語学」『上代祭祀と言語』(桜楓社)。大島信生「萬葉集、イハフ・イム・イツク―巻第七・一三七七番、一三七八番―」『皇學館大学神道研究所紀要』7号。新谷正雄「万葉羈旅歌に見る「斎ひ」をめぐって」『国語と国文学』76巻3号。
執筆者 山﨑かおり