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万葉神事語辞典


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項目名 いむ
表記 忌む
Title
Imu
テキスト内容 災いを避けるために身を清め慎しむこと。『古語大辞典』(小学館)に「忌む」は「神聖な、犯すことのできない宗教的禁忌で、敬避すべきもの(積極的忌み)、嫌悪すべきもの(消極的忌み)のいずれにも用いた」とする。用例の限りではタブーを守って慎しむ意すなわち消極的に神聖性を保つとするものが主流であると見られるが、タブーを介在させないものもある。『類聚名義抄』には「斎」「忌」「禁」「諱」などの字にイムの訓を付す。記紀および万葉集に仮名書き例はなく、万葉集には「禁」「忌」「斎」字を用いた例が散見するものの、「妹が名告りつ忌物矣」(11-2441)はイムベキモノヲともユユシキモノヲとも訓まれ、「神さびて斎尓波不在人目多みこそ」(7-1377)はイムトニハアラズ、イツクニハアラズ、イハフニハアラズの訓が対立している。イム・イツク・イハフはいずれも神聖観念を表す点で類義語。「人に語りつ可忌物乎」(11-2719)、「我は言ひてき応忌鬼尾」(12-2947)は音数の上からイムベキモノヲと訓むことで異説を見ない。「言之禁毛なくありこそと」(13-3284)についてもコトノイミと訓読され、こうした用例からは言葉・発語に関する禁忌の意識が看取される。とくに恋しい人の名を他人に伝えることが禁忌とされていたらしい。神代紀には「反矢可畏之縁」「世人悪以生誤死」などにイムの訓をあてる可能性がある。記上巻「忌服屋」はイミハタヤと訓むことができ、『延喜式』祝詞「大殿祭」「斎部の斎斧を以て伐採て…(中略)…斎鉏を以て斎柱立て」の例とあわせ、これらにはタブーの意は介在せず、その事物の神聖性を積極的に評価する意と解される。祭祀を司る古代氏族忌部(斎部)氏の名もイムに由来する。
執筆者 影山尚之