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万葉神事語辞典


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項目名 いし
表記
Title
Ishi
テキスト内容 石。万葉集には、「恐し」を起こす序である「奥山の磐に苔生し」(6-962)が「奥山の石に苔生し」(7-1334)とも表記されるように、石をイハと訓む例が多数ある。石(5-869など)のほか、小石(4-525)、さざれ石(14-3542)、つぶれ石(16-3839)などがみえる。「石」を用いた表現では、「石は踏めども」(13-3311)、「石踏み渡り」(13-3313)、「石は踏むとも」(13-3317)といった類型的な表現がみられる。石は「奇し御魂」(5-813、814)と表わされるように、人々の崇拝の対象ともなった。加えて、岩石には神霊や人の魂が依りつくとする信仰があり、信濃の千曲の川の「さざれ石」も君が踏んだのならば玉として拾おう(14-3400)といった歌は、単なる恋の歌ではなく、人が触れた石にはその人の魂が宿るとする習俗に基づくと考えられている。また、石は占いに使用された。「夕占問ひ 石占もちて」(3-420)とあり、『新大系』が説くように「もちて」を「石占の石を持ちて」の意ととれば、石を持ち上げてその軽重感によって吉凶を占ったとみることができる。または、紀の景行天皇12年10月条に、天皇が土蜘蛛を滅ぼすことができるかどうかを占って大きな石を蹴ったところ、その石は大空に上がったとあり、同様な話は風土記の豊後国直入郡蹶石野条にもみられる。こうした石蹴りによる占いとも考えられる。そのほか、産育習俗にも石が用いられた。それは、出産を控えた神功皇后にまつわる鎮懐石の話で、これは丸くて鷄の卵のような形をした2つの石からなり、万葉集には皇后はこれを袖の中に挿しはさんで「鎮懐」とした(5-813題詞)とある。歌に御心を鎮めるためとあるが、記では胎児を鎮めようとして石を裳の腰につけたとあって、石によって出産の進行を制御しようとする呪術が行われたことがわかる。
執筆者 入江英弥