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万葉神事語辞典


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項目名 あめのした
表記 天の下
Title
Amenoshita
テキスト内容 天下。国土。高天原の下。この語については、遠山一郎『天皇神話の形成と万葉集』(塙書房)の「第一章 世界の区分」に詳細に説かれている。それによれば、この語は記・紀、万葉集、風土記、金石文等の文献に約400例見られ、「人の時代において、天皇による統治という視点から人の世界を表わした呼称」であり、記・紀と同様、万葉集においても「天皇の統治する領域を表わすにはアメノシタを用い、神の時代の地上界を指す『葦原の瑞穂の国』と区別し、二つの呼称を使い分けるのが原則」であったという。具体的に万葉集の用例のいくつかを見てみよう。万葉集に最初に登場するのは、柿本人麻呂の近江荒都歌で「玉たすき 畝傍(うねび)の山の 橿原(かしはら)の ひじりの御代(みよ)ゆ 生(あ)れましし 神のことごと 栂(つが)の木の いや継(つ)ぎ継ぎに 天の下 知(し)らしめししを」(1-29)とあり、初代の神武天皇以来、次々と、神としてこの世に姿を現した天皇が治める世界を「天の下」と歌っている。時代が下って、田辺福麻呂は寧楽故郷を歌って(6-1047)、わが大君(天皇)が治めておられる「日本国(やまとのくに)」は皇祖の神の御代以来ずっと治められてきた国であり、今後も「生れまさむ 御子の継ぎ継ぎ 天の下 知らしまさむと」と、人麻呂と同様に歌っている。ここでは「天の下」は「日本国」とほぼ重なる。万葉集で一番新しい時代の用例は755(天平勝宝7)年の大伴家持の作(20-4360)である。兵部少輔として防人管轄の任に当たっていた家持が難波において詠んだ歌である。いにしえの天皇の遠い御代にも、この難波の国で「天の下」を治められ、以来現在にいたるまで「神ながら我ご大君」が愛でてこられたこの難波の地云々と歌う。ここにも「神である天皇」が統治する世界が「天の下」であるという前提が意識されている。宮中に降った大雪を「天の下すでに覆ひて降る雪」(17-3923)と詠むのも、如上の意識下にあると言えよう。
執筆者 村瀬憲夫